自由気ままな流浪の旅人

風に任せて旅の途

流れ流れて何処へ行く

独り揺られて何処へ行く













「お!久しぶりやな〜ッ!!」

「キミも相変わらずなのだね。」




それは  若葉溢れる頃のこと

山に一人の僧侶が降り立った


突然の訪問はいつものこと

そう言って  盃を交わすのもまたいつものこと




「そういや、この間は大宴会やったんスよ〜。」

何ちゅうても俺らの頭の誕生日〜と

彼の親友がにへらと笑う

ならばこれは何次会なのだろうかと

僧は  空樽の山と潰れた山賊らをを見やり少し呆けた

「それは…おめでとうなのだ。」

「おぉ!!そやからお前も付き合えや!」

「だ。」


勧められた盃の中で

笑顔がゆらゆらと  波紋に消えた




「〜そういやお前のはいつなんや?」

「一ヶ月後〜?折角やし今祝ったるわ!」

「めでたい日やんか。生まれてへんかったら、

会えるもんも会われへんねやし。」

「おめでとさ〜んッ!!」

「おめでとうッス〜〜ッ!!」




そんな言葉を繰り返し

そのまま  彼らも酔い潰れていった

溜息混じりに上着を掛けてやった後

僧は  その盃を飲みほした


酒の薫りを追うように  晴れた夜空を仰ぎ見た




星々は沈み  払暁が射す

鳥も獣も未だ眠る山に




「今回はもう行ってまうんスか?それやったら今起こして…」

「いや、いいのだ。気持ち良さそうに寝ていたし。」

「井宿さんが来はったから余計やと思います。

…そう言えば、今日はそんなに酔ぅてはりませんね。」

「そんなことはないのだ。…それじゃ」




「井宿さん!」

山風に押されるように  後方で叫ぶ声が聞こえた




「井宿さん、……俺ほんま嬉しいんです。

幻狼が生まれてきてくれたこと。

幻狼が、今こうして俺らと生きてくれてること。

けど俺は、井宿さんに出会えたことも嬉しぃ思ってるんです。

こないして酒飲んだり、一緒に話したり。

会えて良かったて。

そやから……気が向いたらでえぇんです。

山あげて精一杯祝わして貰いますよって。」




「きっと、アイツも同じ思いやろうから。」




木の葉の揺れる音が聞こえた


短い沈黙の後

面を外し  小さく謝意を呟いて彼は

いつものように  風に消えた




風が  さざめく


今はただ  その日その日を愛しく思う

空の色  風の声  人の心を受けて生きること


それでも  ふいに虚ろを抱くこともある

自分は一体何なのだろうと


かつて幾度も生を悔い  死に走り

生まれ落ちたことさえ無為を覚えた

その残酷さを心から知ったのは  一体いつだったろう

消し去りたいと願った彼らとの記憶が

灯火と気付いたのは  いつだったろう




『めでたい日やんか。』

『会えて良かったて。』




そう純粋に  思い言葉にしてくれる人が

まだ祝ってくれる人が自分にもいると

この胸のぬくもりを  どう伝えたらいいだろう


そう  そう言って彼の応えはわかりきってるけれど

ふいにその言葉が  聞きたくなるから




枝葉を揺らせた風が去り

木漏れ日の下  一人の僧侶が降り立った


ふと顔を上げ  笑みが零れた

喧噪が  山の砦から風と共に来る








'07/05/21
誕生日おめでとう井宿。詩のイメージは、だいたい数年先で。
……去年よりは早い設定です(笑)
『誕生日と言っても、彼は特別な行動をしそうな人じゃなさそうです。
いつもより少し芳純時代を思い出し、懐かしむことはあるでしょうが。』
と昨年書いてしまったんで、今回はこのコンビに頑張って貰いました。
祝ってあげて〜♪もう思う存分井宿が恥ずかしくなりすぎて、
嬉しさ通り越して照れ怒るまで、祝ってやって欲しいです。
心の底からそう思います。もうめいいっぱい祝ってやって。



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