朱 一四〇






[柳宿]

上品な着物に可憐な簪に。

併せて毎年桃を一枝。

装いを変えても星を宿しても、思う所もあっただろうに、

変わらず母は祝いの言葉と花をくれた。

歳を重ねて意味を知り、時を重ねて心は定まる。

かつて、母より贈られた想いを胸に、

兆した朱色の一文字を胸に。

艶やかに咲くその華は、どちらも共に邪を祓う。




[張宿]

生まれは、出会いと別れの季節だと。

凍えた空に陽の温もりを知る季節だと教えられたのは幼少の頃。

そう答えた僕に帝は、そっと目元を和らげた。

信じた者は去り、道は閉ざされ、そして新たな道が示される。

共に歩んでくれるかと、問われて強く頷いた。

未だ風が吹こうとも、仲間の為の陽になるために。




[星宿]

互いに接点のない者だ。片や皇帝、片や山賊。

伺っていた距離はしかし、さっくり開き直った男が詰めた。

片や盛りの時期、片や花弁の舞い始め。

えぇ時期やし次は一緒に呑みはりません?

同じ生まれの月やて聞いて。

酒の席か。や、おめっとさんて互いに祝ぅて呑むだけですて。

気楽なのだなと互いに笑った。



[翼宿]

阿呆で乳臭いガキでしかあらへんかった。

逃げへんなと思てるうちに、図体が伸びた。

めげへんなと思てるうちに、腕っぷしも度胸もつけた。

目指すものがあるんやと自慢の足で駆けて駆け続け、

そのサマに引き寄せられてもう何年や。

「あぁでも目ぇは変わらんか」「何の話や」

キラキラ眩しゅうて敵わんわ。




[軫宿]

朱雀の加護は朱光だけじゃないんですね。

唐突な言葉に振り向けば、

宮の庭園を見やり笛を握りしめ青年は笑う。

戦火と血臭に沈む絶望の中でも、ぽつりと芽吹き伸びゆく新緑。

命の色だと呟く彼の手を、笛ごと己の左手で包み込む。

皆もお前も癒やしてみせる。

大丈夫だと誓う言葉は、彼と、何より己に向けて。




[美朱]

空を、何度も彼と眺める。

満点の夜空に、晴れ渡る青空に、遠い記憶となった彼らを想う。

貴方達に出会えて良かった。

何度も繰り返す、貴方も何度も繰り返す。

出会ってくれて、生まれてきてくれてありがとう。

そうして、私は何度も奮い立つのだ。

皆が見ている、負けるもんかと昔のように勇気を出すのだ。




[井宿]

またえらい日に誕生日迎えたもんやな。

今宵の肴は先の蝕。己は乱れた気を祓い、

彼は山に沸いた妖魔を片っ端から燃やしたそうだ。

相変わらず、お互い何年経とうと変わらない。

思った先に、何かえぇ事あったやろと

目の前の八重歯がにやりと笑う。

まだ余裕ぐらい持たせてくれと黙って目の前の頭を叩いた。




[鬼宿]

扉を開ければ、ベッドには既に寝入った我が子。

ぐずって大変だったと笑う妻に、かつての父の姿が被る。

兄ちゃんお帰り。待ってたんだよ。帰り遅いよ。

起きればこの子も、きっと弟妹達のように言ってくれるのだろう。

それが愛しい。

だから1日位過ぎても言えば彼女は笑う。

今日、貴方に伝えたいのよと。








'12/08/11
誕生日おめでとう朱雀陣!
ということで、140字以内短編で祝おうとの燃え滾る企画に参加。
(美朱のものは、期限に間に合わずブログ上でエア参加でした)
いやぁ楽しかった句読点含めきっちり140字にするのが楽しかった!
以下ちょっとずつ一言。
[柳]節句の花って確か破邪の意味合いあったよねと思いまして。
[張]彼の登場時期って桜の季節のようです。別れと出会いの時期。
[星]儀礼・式典でない「飲み会」に誰か彼を誘って欲しかったので。
[翼]攻児視点。変わってく所と変わらない所どちらも共に眩しいと。
[軫]アニメの彼の力が朱色でなかったなぁと思い出して。
[美]最終巻〆並ぶ二人の後ろ姿を思い浮かべながら。
[井]金環日食です。でも「日蝕」の当て字の方が好きなので、つい。
[鬼]伝えたいと言ってくれる人がいる有り難さだったり嬉しさだったり。



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