少し  昔の話をしよう

そうして語られる話はいつも  御伽話のようだった



真実味など湧こう筈もない

異界より少女が訪れただとか

四方国の象徴がかつて  この地この空に降り立ったとか

愛が世界を救うなど  世迷言にも程がある

星を宿し  神を宿した者らなどそれは

それは最早  人ではない



腹に抱えた燻[くすぶ]りを  ある時ぶつけた事がある

困ったように眉尻を下げられて

彼は  それでもと笑って言った

星を宿そうが  人外の力をこの手にしようが

それでも人は  どうしようもなく人でしかないと



星を宿したが故に死ねぬ体に  抱いた絶望と諦念の深さ

星を宿されし仲間がこれかと  抱いた初見の呆れと保護欲

星を宿そうが技を磨こうが  零れ落としてばかりの無力さ

神仙の心など程遠い

少なくとも己は  袈裟を纏って俗世に一線引いてはみても

心に  魔物を飼っていた



では  その魔は誰が祓ったか

天か女神か四方の神か

選ばれし巫女が星占により道を示したか

御伽話でもあるまいに



あの日  背後の「守護」を任せられたのは

先陣を切る覚悟を得たのは

彼らが  己を思ってくれたから

己が彼らを思える心を  彼らが育んでくれたから

再会した友と終わるを良しとせず

生きる道を示してくれたのは  断じて星の輝きでなく

彼らと  彼女自身の眩しさなのだから



言っただろう  昔の話だ

全て 俺が歩いてきた道のりの話だ

そして道は違[たが]えたけれど

まだ共に  俺達は今も歩いている



遠くからの呼び声に  僧は緩慢に腰を上げた

砂埃で汚れた裾を掴んで  少年は問う

また  話してくれへんか?

目深に被った笠の奥から  やわらかな声が落ちてくる

勿論  まだまだ話はたっぷりあるのだ



燃えるような髪をくしゃりと撫でて  そうして彼はまた

旅路に戻る







'15/09/09
掌編更新が久々過ぎて、冗長さに眩暈を覚えた投稿日前夜。
第2部から年数を経て、とある村での僧と少年のやり取りです。
素敵企画に参加させて頂き、また欲張ってお題3つも詰め込んでます。
井宿誕生日おめでとう!今年も祝わせてくれてありがとう!!
今年は「手のひらの中の輝き」と「月のない夜」を聞きつつ。



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