4/ナイフ






あの日  彼の右手には小刀があった


身を切り裂くもの

傷付けるもの


その柄は  汗ばんだ手に程良く馴染んで




黒雲の中


冴え渡る  かつての光も見失い

ただ  遠く響いた落雷に

深みを増した影で答えた


雨粒が  錆び付く暇さえ許さず流れた




何年経ったろう……




今  彼の右手には錫杖がある


術を放つもの

傷付けるもの


その力は  形は違えどかつてと同じで




夕雲の下


朱に染まり  記憶の一片[ひとひら]胸に秘め

ただ  通り過ぎゆく風音に

玲瓏なる音で返した




陽を浴び  静かに輝くそれを

右手に握りしめ


帰途についた








'05/08/03
上記の風音という単語で、少し「風」とリンクさせたかったんですよ。
そしてお題一発目は、やはり明るめの詩がいいかなと思い……。



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