突然の 横殴りの衝撃は
あまりに深く遠いもの
刹那 視界が白に覆われた
何が と思う間さえなかった
8/傷跡
ふと 我に返ると
世界は赤く薄暗く濁っていて
すぐ目の前にいたはずの 彼の姿も見えなかった
叩きつけんばかりの雨粒が
微かに遺された 右手の温もりを拭い去る
凍り付いた頭の中で
耳鳴りと血流と 誰かの呼ぶ声が駆け巡る
嗚呼
激流は荒れ狂い 悶えるように滑り行く
俺の知る人 知る家 知る景色総てを飲み込んで
思わず立ち上がり
そして
見えるはずもないものを見た
先日 俺が贈った桔梗の衣
その中から伸びる 白く細い腕
川面[かわも]に消える 伸ばされた 手
……嗚呼
もう 自分が何をしているかなどわからない
慟哭しているのか 声にもならぬのか
立ち尽くしているのか 地に倒れ伏しているのか
ただ 意識の片隅で気付く
体の奥底で熱が生まれ
じわりと 右膝が輝きだしたこと
柔らかで 温かい
本来人を包み込むべき朱の光は
胸を貫き 天へと突き刺さる
すぐ側で 河は猛り空は哭き
空気は血と泥にまみれ 震える
目の前に広がる光景は惨絶
そして自分は光の中 静かに 無音に縛られる
憎しみに 自身が燃え尽きるかと思った
許せないと そう思っていたのに
…何故 俺は此処にいる
…たった今 川底に消えた彼らは誰だった
…たった今 俺が手を離した彼は誰だった
……俺にとって 彼らは一体誰だった………
泪も怒りも悔いも愛しさも
鎖の如く 雨は絡め取る
朱い光はとめどなく
彼を覆い 溢れ続ける
俺は
彼らが大好きで大好きで……
だけど
だから
「……どうして……………ッ」
意識を手放し 再び目覚めたその身には
既に 己の罪と宿命を突き付ける
永劫消せぬ 印しがあった
'05,11,12,
親しい人が死ぬ、それだけでも人は一瞬我を忘れる。
心から大切に想う人なら、己に穿たれた空虚はどれ程のものか。
呂候ではないけど、彼も「骸に縋って泣くことも叶わぬ」のだなと。
あの混乱の中なら最悪、形見にすらも縋れぬのだなと、ふと。
BACK