〜Twitterログより〜
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〜*〜*〜*〜
すまん。また頼む。
受話器を取れば、開口一番に圧し殺された声が聞こえた。
声の向こうに君の顔が浮かぶ。
持てる限りの力を尽くしても、及ばない事がある。
それを知り尽くした上で足掻く君を知っている。
判っている。
すぐに向かうのだ。答えて、数珠と袈裟に手を伸ばした。
'16/10月
指定お題「僧侶と医者」
人名でなく職業だったので、現パロでこんな感じになりましたが、
思ったより反応頂けてほっとした記憶があります。
〜*〜*〜*〜
例えば、今なら東の村の紅葉が良い。
もう少しすれば、北国の山々が美しい。
執務の合間に、相談の折に、
話の種が尽きない僧侶に彼は楽しげに笑みをこぼす。
この身で叶わぬ事は重々承知した上で。
その上で、果てなく夢に思い馳せる。
いつか、この国を隅々まで巡りたいと。
'16/10月
指定お題「旅」……だった気がする;
第一部後半、一人自国に残っていた星宿が、
公的ではなくあくまで私的に、旅に出られたらというイフの話。
〜*〜*〜*〜
増水した川面(かわも)は荒れ狂っている。
泥が跳ねる。流木が飛沫の合間に顔を出す。
裏切った青年を呑み込み咀嚼し、
既に何処にも見る影もない。
肩を落とした巫女を支えて、宮殿へ戻る。
その間際に再度振り返った。
見る影はない。
ただ放された手の白さだけが目に焼き付いた。
'16/08月
例の場面を、台詞や心情を洗わず単語を使わず表すとしたら。
そんなTwitterでの話題に乗っかってみました。
……被らない筈がないよなぁとも、思いつつ。
〜*〜*〜*〜
穏やかさとは程遠い、
薄氷の上に佇むような微睡みの中で気を探る。
水に嬲[なぶ]られ冷えた玉飾りは、
己の意思に反し彼から体温を奪い取る。
もういいねとは言えないけれど。
そうして見上げた視界に拡がったのは、
覚悟を得て光る紅い玉。
大丈夫ね?
ほぅと息を吐き、眠りについた。
'16/06月
第二部美朱が攫われた後の、玉の中の娘娘視点。
大極山が失われてからずっと、井宿の側にいてくれた。
彼を見守ってくれていた彼女の存在に気付かせてくれた140ssに感謝を。
〜*〜*〜*〜
だから、どうした。
言葉を投げた朱雀の術師の、一つ残された瞳を見やる。
私がその出自を持ち、貴様がその傷痕を持ち、
如何な道を歩いてきたとして。
問うて、どうする。
仲間に支えられ見つめる瞳の、奥に浮かんだ疑問に嗤う。
私が天に何を望み、天が貴様に何を望み、
それでも歩むと決めて此処に立つ。
'16/05月
Twitterで拝読した、西廊国井宿と心宿の相対場面の考察につい、つらつらと。
あの時疑問を投げたのは時間稼ぎのつもりだったのか、
それとも本当に、純粋な疑問からくるものだったのか、とか。
〜*〜*〜*〜
雛祭のお祝いだよ、また少し遅れてしまったけれど。
そんな言葉と共に、今年も両親は色彩華やかな衣を贈る。
お前に似合うと渡されたそれを、また今年も弟は身に纏う。
いつか、
言葉に出しても受け取ってくれる日が来るだろうか。
紅をさして微笑む弟に、今年も僕は心で告げる。
柳娟、
誕生日おめでとうと。
'16/03月
年始のくじ引き企画で盛り込めなかった柳宿さんと雛祭と誕生日ネタ。
お兄ちゃん視点です。
〜*〜*〜*〜
あぁ、もう裾が足りないねぇ。
皺の増えた目尻を細めて、母は繕い物の手を止めた。
年頃の子らと比べれば多少小さな弟も、
一冬越えれば確かな成長を見せてくれる。
いっそ新調しようか、次のあの子の誕生祝いに。
笑って頷き、思案する。
幾多の命が芽吹く今、若草色の衣はどうかと。
'16/03月
張宿誕生日に寄せて。
今年は張宿と柳宿しか書けなくて、少し悔しかったなぁ。
〜*〜*〜*〜
厄は払わねばと母は言った。
宮中を綺麗に払い清めて、貴方の御代に安寧を迎えると。
具足の音も剣戟の音も、誤魔化しようもない鉄錆びの香りも、
節句の儀の度訪れた。
……時には招く必要もあった。
晴れやかな顔で笑む少女に目を伏せ詫びる。
我らの世は、其方の世と何と程遠いものか。
'16/02月
お題「紅南国と節分」で書いて頂いた140ssへの返歌。
豆を投げて厄を祓う、その方法の平和さに、
気付かせてくれた140ssが堪らなくて悶えながら打ち込んでました。
〜*〜*〜*〜
その呼び声が、どれ程嬉しかったろう。
目映い屏風に、幾段にもなる雛飾り。
兄と二人揃って見上げて、華やかな宴の様に酔う。
視線を下ろせばふわりと開く小さな花。
あぁ、きっと似合う。
今日の主役に。僕の大事な妹に。
一枝貰って髪に飾ろう。
節句の邪を祓う桃のようにきっと、僕がお前を守ってやろう。
'16/01月
くじ引き交換会参加140ss。
雛祭の様子を描いた140ssへの返歌になります。
以前誕生日関連としてまとめて上げたものの一つに繋がっていたり。
〜*〜*〜*〜
朱雀は神名であり、また星の総称でもある。
神の力を宿すは異界の娘。
星を宿すはこの世界に生きる者。
何故かと、かつて師に問うた。
答えも応えも得られぬままに、
歳を重ねて旅の道中、
夜空を見上げて立ち止まる。
満天。
その中で輝く南方七宿。
胸に抱えたあまりに近しい光があの日、
幾つも重なり神に届いた。
'15/12月
お題「天帝、四星君」推奨キャラ「好きキャラ」
最終回と伺い、久々にふし遊ワンクリに挑みました。
冒頭三行をネタにした小説が読みたいなぁとひっそり思いつつ。
〜*〜*〜*〜
時の流れが異なるのだと、
戻って初めて気が付いた。
復興を始めた生国に、駆け寄る妃と諸官に、
応えぬ事など出来はしない。
それでもと詫びて僧は身一つ、
逸る心で笠を振る。
降り立つ先の岩の黒、
それを取り巻く白に安堵した。
すまない、遅くなったのだ。
笑みを浮かべた白い顔。
涙を堪える赤い頬。
軋む心が駆り立てるまま、
目印の根元に手をかけた。
'15/11月
その石は墓標でなく、迎えの時の目印にと。
そう提案した少年も今はいない、そんな第一部後の一場面。
「井宿・張宿・雪」でお願いした140ssがあまりに切なくて、つい。
〜*〜*〜*〜
初めは、鬼宿と向き合った日か。
傷の痛みも顧みず顧[かえり]みず、
こんなもんでと吠える背中が大きく見えた。
初めてあの日先陣を切った。
魔の湧く都の大通り。
仲間を守り渦巻く炎の熱を背に受け、
錫を振るう手に力が湧いた。
……思い返せば笑みも出る。
窮地を共に越え、生き抜いて。
その背と背が今、すぐ側に在る。
'15/10月
くじ引き交換会にて、背中合わせな生き残り組140ssへ返歌。
あまりにも燃えるシチュエーションに、それぞれの背について井宿視点で。
時系列はVS悪鬼→第二部最終決戦への道中→元140ssです。
〜*〜*〜*〜
警告は残した。
まだ名乗り出る時ではないと、
早々笠に身を滑らせて夜風の踊る樹上に移る。
まだ暫くは様子見でいい。
その考えも真白に飛んで、この手を伸ばし、引き寄せた。
助けなければと、
凍った体を動かせたのは使命だからかと、
天を見上げて笑いが漏れる。
噛まれた痛みに思わず笑みが引き攣った。
'15/10月
twitter上くじびき交換会の参加作品。
夜陰に紛れて巫女を助け、さっさと消えたあの場面です。
……もう頭上がらない程に堪らない返歌を頂き悶え転がりました。
〜*〜*〜*〜
遅れを取り戻さねば。
使命の為にと、そう意気込む心の底で
恐れと焦りが影を射す。
この知識は、果たして誰かの助けになるのか。
握る拳に、ふいに温もりが寄り添った。
驚き顔を上げれば仲間の猫と、
そして視線の先に目映い満月。
まるで見開いた自分の瞳のようで。
まるで、顔を上げろと言われた気がした。
'15/10月
仲間の残した書、仲間からの「満月だ」との言葉に惹かれて。
意図と外れた連歌になりましたが、これもまた楽しいなぁと。
〜*〜*〜*〜
今度こそ、と握り締めた手は幾度も嘲笑われる。
力を失い負傷した身で足掻いた所で
無駄に命を削るのみ。
けれども、と尚[なお]顔を上げる。
削ったその先があるのなら。
少女から女性へ、そして母へ。
同じ名を持つ赤子にかつて亡くした未来があるなら。
判るだろう、と身勝手に思う。
許してくれるなと続ける事も。
'14/07月
そういやまだサイトに転載してなかったなと発掘したら、
1年半前だよもう前後の流れ覚えてないよと'16年の1月に。
軫宿と井宿、少華という名の赤ん坊三人で。
〜*〜*〜*〜
白磁の肌に高価な宝珠と艶やかな生地。
手入れの行き届いた髪を結い上げ、金銀舞い散る簪を添え。
ご覧、美しい娘だろう。
これ程麗しい娘はきっと、後宮に在っても僕達だけだ。
振り向く先に応えはない。
それでも笑みは崩さない。
曇り一つ無い鏡に一筋、
奥底に潜めた心に幾筋、
掠れて遺[のこ]る紅の跡。
'15/08月
くじ引き交換会にて、後宮装束の柳宿のイラストへ返歌。
見返り美人だけでない深い笑みと、モノトーンの中に浮かぶ赤が美しく、
この絵に言葉返すとか無粋過ぎるよ?!と正直焦った記憶が……。
〜*〜*〜*〜
こちらが取るまでは辛抱強く……いや、大抵は強引に。
口に含めば咀嚼も待たずに、おいしいね!と同意を求める。
心から溢れんばかりの笑みに、
いつから頷けるようになったろう。
泥を噛むような作業がいつから、
人並みの食事に変わったろう。
やり方は置いておくけれど、その眩しさには救われた。
'15/08月
くじ引き交換会にて、満面の笑みの娘娘と小さく笑う井宿のイラストへ返歌。
もう本当に、娘娘の笑顔が可愛くて真っ直ぐで眩しくて。
彼女が、彼の側にいてくれて良かったなと心から思う。
〜*〜*〜*〜
届けと願う。
池の畔で仮面が欲しいと、少女の伏せられた笑みを見た。
未だ答えを得られぬけれどと、
重ねた言葉が熱を持つ。
どうか届けと希う[こいねがう]
水煙と建材の破片に満ちた廟。
去り際の一瞬、笠越しの視線を思い出す。
濡れて立ち尽くす少女はかつて、
恐らくは今も、
君の応えを待っている。
'15/08月
twitter上くじびき交換会の参加作品。
3、4行目は原作「オイラが言えるのは一つだけ〜」
6行目は井宿が吹っ飛ばした青竜廟内、のつもりでした。
キャラ名・場面・原作台詞と三拍子揃って伏せてたこれに、
希望と安心感が伝わる返歌を下さった方に、感謝を。
〜*〜*〜*〜
「ご飯粒ついてるのだ」
そう言われて、一瞬思考が停止した。
それはないだろう、今朝は確か昨夜の残りを急いで片付け、
隣国の使節を茶を交わし、
下官の報告の合間にこうして
井宿からの話を聞いて……。
そこで漸く気付いて見やれば、苦笑と共にお握りが差し出された。
「冗談ですのだ」
'15/04月
指定お題「ご飯粒ついてるのだ」
朱雀陣の中で一番ご飯粒が似合わない方を選んでみました。
ちゃんと食事は摂ってください、陛下。
〜*〜*〜*〜
相変わらずだろうか。
見上げた空に、彼の姿が頭をよぎる。
歳のせいか、性分か。
暫く会う機会を持たなければ、君の背はすぐ霞を被る。
相変わらずで居てくれるだろうか。
僅かな期待に笠を振る。
紅葉が踊る葉陰の向こうで、笑う君の声を聞いた。
'14/10月
フォロワーさんよりのタグ#フォロワーをイメージして小説のタイトルを考える、から
「風の向こうで笑う君の声を聞いた」を頂いて気に入って思わず返歌してしまった代物。
こういうのも楽しいなぁ。
〜*〜*〜*〜
束の間の休息で戻った気力は、通信術には充分な程。
けれど。
確証がなかった、皆に休息が必要だった、まず術者の己が探らねば、
何を言っても火に油だろう。
事実それは端から頼りになどしていないと同義。
ぎりと二の腕を掴む彼の手を振りほどかぬまま、
返せる言葉があるはずもない。
'14/08月
仲間ならと苛立つ翼宿と、何も返さない井宿。偽西廊国の一件より。
返せないでも返さないでも、どちらもあり得そうだなぁと思いつつ。
〜*〜*〜*〜
幾人もの声が聞こえた。
顔を上げ欄干越しに下を望めば、陽射しの下を鮮やかな髪色が駆けてゆく。
墨で飾られた顔を怒らせ追いかける先には、巫女と仲間の逃げ笑う姿。
賑やかな事だ。
口許に笑みが漏れた所で、
陛下、と呼ばれる声に意識が戻る。
弛んだ気持ちを引き締めて、新たに積まれた書面に向かった。
'14/07月
ふし遊版深夜の真剣創作60分一本勝負より、お題「ちょっと一服」
推奨キャラ、星宿視点で一本。
〜*〜*〜*〜
昔から目が離せない。
私が引っ張ってあげないと。
掴んで引いていた筈のその手が、離された気がして大層慌てた。
心乱れた。
引かれていたのは私の方か。
涙に沈む神獣の腹の底、朱雀の力が流れ込むと同時に、
あんたと心が混じり合う。
自責も悲しみも、温もりも決意も。
共に並んだ親友と、久方ぶりの半分こ。
'14/07月
ふし遊版深夜の真剣創作60分一本勝負より、お題「はんぶんこ」
推奨キャラ、唯ちゃんと美朱で一本。
〜*〜*〜*〜
振り返ったその顔は、時が来たのだと決意に満ちていた。
宮殿へ向かう道中では、小さな頭で幾つも思索を巡らせる。
朱色の巨大な門を抜けて走り去る背中に迷いはない。
……道輝、「お前」は大丈夫か。
星の重さに怯え震えた幼い弟を抱き締めた感触は、
未だこの手に残っている。
(さとみ様作 140ss)
「お休みなさいまし」
ひとり部屋に取り残され、そのままくたりと座り込んだ。
今日の目標はふたつ。
ひとつは朱雀七星として名乗りをあげること。
もうひとつは。
(ちゃんとできただろうか、僕は)
心配そうな双眸を思い出して顔が歪む。
今だけだから、今夜だけは。
道輝は抱えた膝に顔を埋め、涙を許した。
「おかえり」
馬車を降りると、上掛けを羽織って母が外で待っていた。
話し聞かせた。
馬車での、宮殿での様子。
誇りある七星に相応しい様子。
だからと続けようとした口は、震えて上手く動かない。
細い手がゆっくり背中を叩いた。
「帰ったら二人で、沢山抱きしめてあげようねぇ」
(さとみ様作 140ss)
大人になっても泣虫だけは治らないんだから。
胸の中で言いあやすように叩くと、応えるように肩が震えた。
随分広くなった背中。
私の手の届かないところを、父親以上によくやってくれた。
あの子の前では泣けないんだものね。
「帰ったら二人で、沢山抱きしめてあげようねぇ」
二人分の思いを込めて呟いた。
'14/06月
指定お題「義翔さん」、更にさとみさんが返歌くださり、更に返歌、そして返歌。
原作のキリッとした登場シーンin馬車に、
隣に座ってた兄ちゃんは何を思ってたんだろうか。
〜*〜*〜*〜
水面で、糸が揺れている。
小さな波紋が一つ、二つ。
木の葉から雫が落ちたのか、輪が混じり合い消えてゆく。
考え過ぎじゃと師匠は素っ気ない。
考え過ぎねと女神は笑う。
けれど気が付けば、ぐるぐると思いが巡るのだ。
過去の行いに、今の在り様に。
はたと我に返り息を吐く。
そうして、意識を水面に戻した。
'14/06月
指定お題「井宿と釣り」
芳准時代からか洪水後か、釣りを始めた経緯が気になるところ。
〜*〜*〜*〜
例えば、爪に残る細かな傷。
ささくれを持つ指の腹には薄く染まった緑色。
節張った指は太く力強く、一見荒々しくもある。
羨ましいと憧れた。
翻ってと己の柔らかな手を見やる。
草の香りが染みたその手が頭を撫でる優しさに、
小さな己の手を思う。
まだまだ届かないと拳を握った。
'14/05月
手ssを書いてみよう的な呼びかけに乗ってみました。軫宿と張宿。
〜*〜*〜*〜
宮殿へも、太極山にも挨拶を済ませて、さてどうしたものかと考えた。
つらつら考え足に任せて、戻った旅路でふいに辺りを見回した。
川辺の花。木擦れの音。白んだ空に昇る輝き。
天命の為仲間の為と、張り詰めていた何かが緩み、
見慣れた景色が流れ込む。
じんわり温もる隙間の奥で、「これから先」を考えた。
'14/05月
井宿誕への投稿ネタ。
今と過去中心だった心に、未来が生まれたのはいつだろうなと。
〜*〜*〜*〜
胸に沈めた憂慮がある。
遥か遠方の国史によれば、
皇帝即位と同時期に巫女の国葬が記される。
天帝の言葉によれば、
二人目は元居た世界へ帰ったという。
いざ召喚の儀、
巫女の来訪に帝と僧の視線は交差した。
神に身を捧げ喰われるや否や、いずれにしても別れは近い。
けれどと、彼と共に在る奇跡を願った。
別れを交わす皆が皆笑みを浮かべている。
役目を終えた巫女が少女として、最後の願いを神に告げる。
友を取り戻し神力に打ち克ち、愛する者との未来を描く。
その眩しさを温かいと感じた。
さぁ、帰ろう。
守り切った国そして彼女の行く末、
どちらも見守れる幸せを噛み締めて。
きっと君なら、奇跡を起こせる。
'14/05月
美朱誕への没ネタと投稿ネタ。
祝ってる感がほぼないなぁと思いまして。
〜*〜*〜*〜
極星の如く北を指し示す花。
在り様が合うわととの彼の言葉に首を傾げた。
それは星宿や、きっと鬼宿や翼宿の持つ力。
そもそも柄ではないと笑えば、合うわとまた彼も笑う。
先を行く彼らも後ろで見守る貴方も、
皆が迷わぬように心を配ってくれてるでしょう?
細指の差し出す木蓮が初夏の陽射しに香り立った。
'14/05月
軫宿誕への投稿ネタ。
木蓮の「常に北を向いて咲く」から思ったこと。
〜*〜*〜*〜
珍しい花ねと受け取れば、遠国に咲く花と言う。
偵察の合間に何をしているのか。
そんな言葉を顔に乗せても、目の前の僧侶は常の笑み。
一度咲いてる所も見たいわねぇ。
いつか皆で行ってみるのだ。
北の肌刺す風の中、天へと咲き上る紫弁の花。
ありがとうと、艶やかに笑む彼に被るは、凛と出で立つ昇り藤。
'14/03月
柳宿誕への投稿ネタ。
誕生花の一つだそうです、昇り藤。
〜*〜*〜*〜
人が、目の前で赤に染まる。
血が滲み噴き出し、身体の一部が落とされる。
それらを総て視界に刻み、
皇帝は武器を片手に先陣を切る。
俺は、と男は左手を握り締めた。
この武器は槍も刀も防げない。
けれど、血臭や苦痛呻き声が満ちるここもまた
己が選んだ戦場だ。
目の前の人は、まだ命まで落とされてない。
'13/11月
「2013 140ss&連歌祭り」企画様投稿、「それぞれの武器」への連歌。軫宿視点。
手段は違っても、守る為に戦う心は同じだったと思いつつ。
〜*〜*〜*〜
(さとみ様宅より 僕もこの手で)
届かないから憧れた。
差し伸べられる大きな掌。
仲間を守る強靭な拳。
道を切り開く力強い腕。
背をそっと押す優しい手。
先を指し示す孤高の指先。
羨ましくて手を伸ばし、くたびれては腕をおろすのをもう何度。
何もない、ちっぽけな己の手のひら。
僕もこの手で、誰かを守れる日がくるのだろうか。
いつか。
(霧音 返歌)
いつも、背伸びをするように前を見据える少年だった。
掴めば、折れそうな短い腕。
押せば、倒れそうな小さな背。
並んで、ぎょとする程細い首。
それが支える若い頭脳に、皆が道を示された。
怯えも震えも抱えてるだろう心の、示す勇気が眩しかった。
享年十三の少年は、
間違いなく国の守り手だった。
'13/11月
「2013 140ss&連歌祭り」企画様投稿、「僕もこの手で」への返歌。
大事な弟のような彼を思っていた、朱雀七星達の視点より。
('14,02,02)さとみ様、掲載許可を下さりありがとうございました!
〜*〜*〜*〜
Happy Halloween!
扉を開けた青年が一人、
扉の向こうに子が二人。
お菓子を頂戴。
…焼きあがる迄後少しだから。
貴方には悪戯したくない。
名残惜しげに彼は彼らに、飴玉を二つ手渡した。
Happy Halloween! 会えて良かった!
俺もだと返す青年の前には既に誰もいなかった。
'13/10月
井飛香の三人で現パロもどき。
ハロウィンって要はお盆みたいなものだよなという事で。
〜*〜*〜*〜
休めと、事あるごとに声をかけられた。
大丈夫なのだと笑って返せば、
黙って薬湯を差し出された事もあった。
休んでくれと、何度も乞うた。
出来る事をと動かす体は、最後まで止まりはしなかった。
横たえられた体に触れる。
ゆっくり休んでくれ。
俺はまだ、まだ、大丈夫なのだ。
'13/09月
指定お題「井宿と軫宿」
大丈夫じゃないけど、そう言う事で大丈夫であろうとするんだろうなとか。
〜*〜*〜*〜
纏まった休みが取れた。
そう言って駆け付けた弟を、布団で寝入った赤子の元へと案内する。
握り締めた小さな両手。
昔の面影を残しつつ、やんわりと目尻を緩めて、
包むように重ねるのは節ばった広い手。
なぁ、お前の一字をこの子にくれないか。
大きくなった背中にそう切り出した。
'13/09月
指定お題「大人版張宿と義翔」
昔は弟もこんなに小さかったのにと感慨深い兄視点。
〜*〜*〜*〜
朝議を終えれば、使者との面会が控えていた。
差し射る陽光に目を眇めつつ足早に廊下を進めば、
伝い落ちた汗が一滴衣に沈む。
後ろの下官に気付かれぬ程度に柳眉を寄せて。
そうして一端戻った自室には、小さな漆器に一片の氷。
小さな涼を口に含んで、弛んだ気を引き締めた。
'13/9月
指定お題「紅南国の残暑時期のイベント」
汗を拭うのも簡単でない立場と装束の星宿に、
差し入れてくれる側近が居て欲しいなぁと思いつつ。
〜*〜*〜*〜
右大臣には出会い頭に知られてしまった。
本人も気付かぬような細かな癖など丁寧に教えてくれた彼は、
顔を寄せるとひそりと告げる。
陛下が憂いなく羽を伸ばせるよう、
共に力を尽くしましょう。
一瞬呆け、次いでゆるりと温もりが広がる。
さぁ、任された大任を無事に果たそう。
'13/08月
指定お題「星宿に変身してた時の井宿」
希望されてたものとずれてる気がしないでもない;
この2人の仲が良いと嬉しいです。
〜*〜*〜*〜
愚かなものか。
部屋を退室し廟に向かう渡り廊下は、
どこか浮足立った気配が滲む。
それを締めようと各所を回るのは、彼が信を置く大臣たち。
的確な指示と気配り。
一国を統べ一人立つ彼は、一人の少女に想いを寄せた。
愚かなものかと僧は呟く。
その温もりを、きっと彼は殺さない。
'13/8月
指定お題「井宿と星宿」
「愚かだと笑ってくれ」後の井宿視点。
……探し当ててくれて本当ありがとうございました某方。
〜*〜*〜*〜
急いではるんでしょ?
送りますよと後部座席に自分を乗せて、
彼は夜道を駆け抜ける。
親友のかつての仲間。
それだけで気にかけてもらうには、歳も環境も随分違う。
せめて敬語はと伝えてみれば、肩が小刻みに揺れ踊った。
アイツが強いて認めた男に、
敬語使わんでどないします?
'13/08月
指定お題「攻児にいやんと張宿」
接点を探しあぐねての現パロバージョン。
張宿はんと呼んでる彼が見たかったもので。
〜*〜*〜*〜
お前の力があればと誰かが言った。
お前が腐ってる間に何人死んだ。
あの化け物がと誰かが言った。
偽りの命で二度殺された。
ただひたすらに下げる頭に、静かに乗せる手があった。
ありがとう。
頑張ったね。
いってらっしゃいと続く温もりに、強く頷き噛み締める。
人と関わらないなど、二度と吐かない。
'13/07月
軫宿と村人さんで、旅立ち直前。
天涯孤独とはいえ、彼女との経緯を知る人やそっと気にかけてくれていた人、
そんな方々が村にはいて、何人かはまだ生き残ってくれてるといい。
〜*〜*〜*〜
何もわからぬ、足元もおぼつかぬ。
真白い世界を歩くように、
引かれるままに歩き顔を上げる。
目の前に横たわる幼い我が子。
あぁ、もう駄目だ。
崩れ落ちそうな視界の端に、白く握られた拳が見えた。
震えるこの手が私を支え、今も支えて隣に立つ。
「……頑張ったねぇ」
泣き虫で優しい、自慢の私の息子達。
'13/01月
遺体を迎える家族、張宿母視点。
柳宿家族ver,もいつかできたら
〜*〜*〜*〜
俺がしっかりしなければと。
年老いた母に負担などかけられぬ、
そうすがりつくように唱えて顔を上げる。
穏やかに眠る顔の白さ。
兄上と呼ばれた、唇のひび割れ。
唱えて唱えて、唱えてふいに、
そっと背に手を添えられた。
小さな体を愛おしげに撫で、小さくなった母が笑む。
「頑張ったねぇ」
あぁ、もう駄目だ。
'13/01月
また某方に影響されて。
遺体を迎える家族、張宿兄視点。
〜*〜*〜*〜
(さとみ様宅より 天命)
「あるさ、何度も」
ずっと逡巡していた問いはあっさり肯定された。
その度に己自身に絶望したと。
「じゃあなぜ―」
生きてこられた?
医者としての使命?
七星士としての義務?
死んだ恋人が悲しむから?
胸中ひねくれた気持ちで選択肢を並べていると、
男は真っ直ぐ目を見て言った。
『生かされていたからだ』
(霧音 連歌)
それは、強制以外の何物でもない言葉だった。
天に選ばれた為使命の為と、
自分の意志など置き去りに、
ままならぬ怒りと嘆きと諦めに、
何度も吐き捨てた言葉だった。
一言一句違わぬそれを、君は真っ直ぐ口にする。
正反対の感情が乗せられた響きが、
眩しく己の胸を焼く。
嗚呼、俺達は「生かされている」
'12/11月
「生かされていたから」某方の呟きへの返歌。
軫宿と井宿2人の会話に触発されて。
('14,02,02)さとみ様、掲載許可を下さりありがとうございました!
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廃墟の中を、荒地の上を、屍の山さえ共に越えた。
幼いなりに弟の手を引き、
幼いなりに懸命に兄を支えた。
ただひたすらに流す日々をけれど、今は思うのだ。
暦を読む余裕を持ち、
遠い記憶となっていた「生まれた日」を迎えて。
隣に、共に立ち続けた片割れがいない今、
あの地獄の中で繋いだ手が恋しいと。
'12/08月
「青龍誕生企画」様に投稿させて頂いた、双子視点。
孤児となる前の遠い昔だろうと、「誕生日」の記憶が彼らにあるといいなと思いつつ。
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背を見せる。見られ、追われているなら尚更に。
むず痒く誇らしく、ちりりと走る緊張感。
ふいに足音がぱたりと途切れてしまおうと、
曲げる事など出来はしない。
温かく誇らしく、きりりと伸びる己の背筋。
見られ、追われる事はない。
けれど仮にも、お前の兄だと名乗るなら。
そうして男は天に背を見せる。
'12/8月
義翔(張宿兄)から道輝(張宿)へ
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官吏を目指しているのだと、誇らしげに小さな胸を張る。
別段その程度で揺れはしない。
一途に背伸びする努力さは、面を付けても励ませる。
頑張れ、無理するな、応援してる。
かつて幾度も言われた言葉に、仲間としての親愛も乗せて。
けれど結局は無言のままに、
彼の背を無言で抱き締めた。
面の綻ぶ音がした。
'12/記録なし
綻ぶ[ほころぶ]、井宿と張宿
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傷があるのは当然だ。
その数が己の成長と迂闊さと誇りを示す。
お前は生っちろそうやなぁと言いかけ、
脱いだ体のあちこちに同じく傷を見つけ驚く。
そういえば確か左目にもあったなと、
たった一度の記憶を掘り起し笑う。
……なんや、お前もしっかり生きてきてるんやないか。
狐の仮面は無言で苦笑した。
'12/記録なし
翼宿と井宿
同じく傷を抱える身でも、その捉え方は正反対。
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