簪 -KANZASI-
その日彼は私を見つけ 少し頬を染め手に取った
流行りの宝珠の欠片もない
道端から摘み取った ただの一輪挿しのような私を
今まで私は幾度も眺めた
その美に惹かれ 選ばれた仲間
すぐ店先で 贈られた仲間
仲間が一人去るたび 残された者たちは皆祈った
− 私たちを手にし身に付けた人が どうか幸せになりますように −
そのために私たちは作られたのだから
生まれたのだから
けれど
けれど彼は 私を落とした
風が吹き雨が降り出しても戻らなかった
それまで固く握っていた右手が
その役目を忘れてしまったかのように
するりと 私は抜け落ちた
− 務めも果たせず終わるのでしょうか −
見上げた私を大水が押し流した
その時
抗うことも出来ない私は 何故か確かにそう感じた
− この先に私の主がいる 彼が贈るべきひとがいる −
− 神様、だから私は残されたのですか
私を見つけた彼の想いが 最後に届けられるようにと −
私は小さな泡と共に川底へと沈んでいった
'05/04/12
妙に印象に残ったんですよ、あのシーン。
アニメでは放送されてなかったけど…。
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