あの日みた光景
体が 水に消えてゆく
心が 水に溶けてゆく
「オレ達は――」
その言葉を 最初に聞いたのはいつだったろう
散らばる意識で 彼は過去を手繰り寄せる
あの日 魔の者に拾われた
四方を 闇と水とで囲われた
額に 外せない呪[シュ]が施された
「――――」
その表情を 見たのはあの日が最初で最後
足元が崩れ去り 闇に呑まれた
己の血糊と濁流だけが彩る視界で
共に嬲られる玉が見えた
戸惑い 言葉を失うしかなかった
助けの声に 応えはなかった
「――親友だ―今も」
裏切ったから 裏切られたのか
応えなかったから 応えはなかったのか
仮初の体を貰い受け それでも心は砕けたままで
伏せた視界に映り込むのは
渦巻く思考の中心で 鈍く輝く玉の光
あの日 お前と交わした言葉は
俺もだったと 声を荒げた
「ずっとこれからも――」
星宿す者だと
神と星に選ばれた者だと ……お前が
熱のない指先に力が満ちる
水鏡に濁流を叩きつける
昂揚感に吐いた息の先
歪んだ笑みの中心で 未だ光を残す玉
あの日 贈られた言葉と笑みが
燃え盛る心に爪を立てた
見るたびに 心が苛立ち逆巻いた
見えるたび 心が波立ち軋みを上げた
「――オレ達は、親友だ」
馬鹿じゃないかと口を開き
もう 人の事は言えないのだと
笑える自分を不思議に思った
満たされたのかと 思い至った
長い間待ち続けた声が
応えが 今ようやく得られたのかと
眩しく仰いだ視界の中心
涙に溢れた瞳に映る 淡く輝く玉の光
体が 水に溶けてゆく
心が 水に還ってゆく
けれど あの日見た光景は今も
確かに 胸の内にある
その温もりを抱いて逝ける事に
心の底から 安堵した
'16/12/26
オンリーの熱冷めやらぬ11月中頃企画された
「ふし遊版深夜の真剣創作60分一本勝負(要するにワンクリ)」
お題「あの日みた光景」に参加させて頂きました。
今回のオンリーで特に思い入れの深まった飛皋、
そしてTwitterで上がっていた「どうして額に付けていたのだろう」との疑問。
そんなこんなを出来うる限り詰め込んでみました。
「怒り」という感情を持ち続けるには、その感情を燃やし続ける燃料が必要なのでは。
止めずにおいた彼の「時間」による「風化・昇華」をさせず、「沈積・燃焼」に使用させる、
……その予定だったんだろうけど結果は見ての通り、という妄想の産物です。
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